沖縄バンド少年物語
つまらなくもない日常

学校には8時15分のバスに乗って向かう。バスに乗り込む瞬間が一日の始まりで、緊張と期待と憂鬱な時間だ。仕事に向かうおじさんや定年間近の県庁のおじいさんやたのしそうな県立高校の女の子達がいるからだ。俺の未来を暗示しているようなおじさん達が憂鬱だった。女の子達は俺にはいない、彼女の存在を知らしめ、女の子に接したいが接したいという表情を少しでも見せたら負けだという気にさせた。この場合の負けは、自分自身や同級生や世間や世界に対してだ。気になるがその気配を漂わせてはいけないのだ。気になるそぶりはみせないが、こっそり女子高生の香りを胸一杯に吸い込む。その刺激は嗅覚を通り越し脳の一番奥まで達す。目に見えない何かで何かを満たし、胸をいっぱいにしてくれる。自分自身や同級生(野郎)や世間や世界に対して負けた気はしないが、女子高生には完敗だ。乾杯だ。完璧に大好きだ。


教室に着くと猛や聡が固まって雑誌を読んでいた雑誌の名はよくわからないファション雑誌だ。今年もてるのはバンドマン風ハーフパンツだ!と盛り上がっている。「隆二、土曜は街に繰り出すぜ」とのたまう。街というのは国際通りで俺たちは毎日一緒に過ごしているから聡、猛の予定はイコール俺の予定なのだ。毎日のように街にも言っているが、ハーフパンツを買うという明確な目標があるこの場合は繰り出すというのだ。自分でもその違いによくわからないがミッションがある場合となにもなくブラブラする場合とでは気合いの入りかたが違うのだろう。
東京ではバンドブームというムーブメントが盛り上がっているらしい。沖縄で、のほほんと暮らしている俺たちはバンドも音楽にも興味がなく、ムーブメントという言葉の意味もわからなかったが、女の子が集まりもてる確率が少しでも上がる所にはどん欲に敏感に近づいて行くという信念があったのでバンドブームを引き起こしているバンドマンに変身することにした。バンドマン風ハーフパンツにはバンドTシャツを着なければいけないらしい。しかも日本のインディーズ系のバンドだ。俺は初めてインディーズという言葉を知った。独立している?自分たちで何もかもをやることらしい。とにかくベージュのダボダボのハーフパンツを買った。すね毛が気になったが、沖縄ですね毛を気にしていたら、飯も喉を通らなくなってしまうだろう。

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