嘘で隠された現実(リアル)
「ねぇ‥あれって柳じゃない?ほら、柳 朱月」


突然出てきた名前に驚く。

私は、指差されたその先に顔を向けた。

道路を挟んだ向かい側に、朱月の姿を見つけた。

見慣れた制服姿ではなく、ライブのときにだけ見る私服姿。


「え、誰だっけ?」


「知らないの?ほら、バンドやってて結構有名じゃん。バンドの曲の歌詞書いてるのが天音だから、よく一緒に居るの見るでしょ?」


「確かに、バンドメンバーでよく一緒に居るから目立つよね。でもさ、バンドより、見るたび連れてる女が違うことで有名じゃない?」


「へぇ?そうなんだ?」


「そういえば、クラスの男子が羨ましがってたっけ…。どうやら今日もそうみたいだね。しかもあれ、ウチの学校の先輩じゃない?」


そう‥朱月は1人ではなかった。

店の壁よりに立ち止まって、女の子と会話をしている。


朱月の表情は、横顔からでも充分に認識できてしまった。

だから、すぐに目を逸らした。

これ以上、見ていたくはなかった。

女の子に優しく笑い掛ける朱月を、認めたくなどなかった。
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