恋する旅のその先に

 他の誰かの声にそれを探してみても、やっぱりどこか違う。

 同じイントネーションと、同じ言葉で話していても、やっぱりどこか違う。

 それらは彼女が発したときの甘やかさはなく、ただ痛みだけを胸に刻む。

 夢を追いかけることだけに精一杯で、彼女の手を握るだけの余裕を持てなかった自分。

 悔やむ気持ちなどないといえば、それは嘘だ。

 だからこの土地に足をつくとき、いつだって軽く深呼吸をしなければならない。

「あっはっ! そりゃ“わや”じゃねぇ」

 土地の言葉を耳にするたびに半拍、息が止まってしまうことを抑えることが出来ない。

 入線のベルが、駅のホームにこだまする。

 今、もし向かいのベンチに彼女が座っているとしたら、どうするだろう。

 答えは決まってる。

 きっとこの電車の窓越しに眺めるだけだ。

 もし陸橋をかけ上がるだけの勇気があるのなら、彼女はそんなところになどいやしない。

 変わらぬあの声で、

「今度の休みはどこいくん?」

 と、左下からこちらを見上げているはずだ。


 夢を追い、夢を手放し、夢をみる。

 不器用な僕は、響き渡る懐かしい音に耳を澄ませると、

「元気にしとればそれでええ」

 誰にいい聞かせるわけでもなく呟いて、上りの電車に乗り込んだ。

 嘘じゃない。

 そう自分にいい聞かせるようにして。


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