恋する旅のその先に

 寄せては返すジレンマ。

 こういうのをひとり相撲っていうのかな。

 あぁそうか。

 わたしは彼にも同じ場所にきて欲しいんだ。

 やさしくエスコートされて舞台に立たせて欲しいわけじゃない。

 わたしひとりでそこに上がるんじゃなくて。

 彼と共に、そこにいたい。

 だからわたしは手袋をしない。

 やさしい彼のことだから、そうしていればいつか必ず、

「手、冷たいだろう?」

 そういって、あの大きな手でわたしの手を包み込んでくれるはずだから。

 今日も彼の隣でかじかんだ両手をすり合わせる。

 精一杯の合図。

 あつい抱擁なんていまは望まない。

 ただ今は、あなたの手の温もりだけを求めるの。

 この真っ赤になった“奥手”があかぎれてしまう前に。

 ねぇ、早く包み込んでね?


< 70 / 110 >

この作品をシェア

pagetop