ヒメ恋~Last Love~
車の後部座席に座り、実家へ向かう途中、あたしは今の疑問を佐野さんにぶつけた。


「ねぇ佐野さん」


「なんですか?」


バックミラー越しに佐野さんがあたしの方を見た。


「今日って…何かあるの?突然食事なんて…」


「私は特に何も伺ってはおりませんが…何か心配事がおありですか?」


「いいえ、何もないわ。ただ…実家を出てから今までの間、こうやって呼ばれることはなかったから…少し気になっただけ」


あたしはバックミラーの中の佐野さんに笑いかけた。


「あまり心配されることはありませんよ。きっと大丈夫です」


何かを察したのか、佐野さんはあたしを見て笑顔で答える。


昔から佐野さんが『大丈夫』と言えば、本当に大丈夫だと思えた。


だから佐野さんの言葉で少しだけ緊張が解れた。

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