慟哭
4 理由



 前から歩いてくる家族は、とっても普通な、いかにも家族、というかんじで。



 まだ若くてオシャレを怠ることない、キレイなお母さんと。



 夏にあの公園で見た、男の人。



 その二人の間に、両手をそれぞれと手を繋いだ幼い子供。




「…っ」




 反射的に身を翻し、近くにあったエスカレーターに乗った。





 ………くるしい





 心臓がバクバクする



 手がブルブル震える



 呼吸が乱れる



 一つ階を降りて、エスカレーターの近くにあった、自販機の横のベンチに座った。






 震える手足と呼吸をおさめようと、ゆっくり目を閉じる。



 ………………



 目を閉じていても、さっき見た、手を繋いだ三人の姿が浮かんできて。



 キリッと胸が痛む。



 …どうしよう、泣きそうだ、私。



 まだバクバクしたままの心臓のせいで息苦しいけど、涙を引っ込めるために深呼吸する。





 夏のあの日、あの公園で。



 絶対もう一度会えるって確信した。



 …こんなかたちで叶うなんて。



 なんでだろう、どこか私のなかでお父さんではないだろうってへんな確信もあった。



 あてにならない、私の勘なんて。



 私のおでこの手をはがして覗き込んだあの男の人。



 掴まれた手の、熱さ。
 まなざし。
 声。



 たった一回会っただけ。



 ほんの数秒の出来事。



 こんなにも覚えてたのに。





 深呼吸だけで止まらなくなった涙は、おさまるどころか



 上体をあげていることすらできないくらいに、泣き崩れてしまった。 



 ここがどこで、誰かに見られるとか、



 そんなことなんて考えられないくらいに、さっきの事がショックで…



 ハンカチで顔を押さえ、その顔を膝に埋めて。



 ただ、泣いた。



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