サイレントナイト~赤くて静かな夜~

昼ビール

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東京から遠く離れたある町の食堂で、スギサキは一人カツ丼を食べていた。

カウンター8席とテーブル席が2卓あるだけの狭い食堂の壁には「カツ丼」や「親子丼」などのメニューが書かれた紙が貼られ、何十年も前から貼られているのであろうそのメニューはすっかり黄ばんでいる。

ソースが冷めた重いカツを口に運んでいたスギサキは、店のテレビにふと顔をあげた。

ちょうどテレビでは、ニュースキャスターが昼のニュースを読んでいた。

「今朝未明、東京都A区の路上で、男性の遺体が発見されました。
男性はA区に住むアルバイト、鹿本ユキオさん、18歳とみられ、遺体の頭部には鈍器で数回殴られた跡があるため、警察では殺人とみて、捜査を進めています。」

A区か…

スギサキはボサボサの髪と髭の下の薄い唇でぼそっと呟いた。

「お客さん、A区に知り合いでもいるんですか?」

年老いた店主がスギサキに声をかけた。

スギサキは店主とは目を合わさずに、

「ちょっと娘が家出しちゃってね…」

と呟くと、

「おあいそして」

と無愛想に言った。

「じゅあお客さん、これから東京に娘さん迎えに行くの?」

店主の言葉には答えずに、スギサキは黙ったまま店を出ていった。

「娘だってさ。なんか人一人くらい殺しちゃってそうな顔じゃない」

カウンターに座っていた常連客が店主に耳打ちすると、

「そんなこと言うもんじゃないよ。
まだその辺にいて聞こえてたらどうするんだい」

と店主がなだめたので、常連客は慌てて出口を振り返った。

スギサキの姿は既になかった。

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