白桜~伝説の名刀と恋の物語~【完】

白桜唸る

その頃、先に屋敷を出た諏訪は、ちょうど常篤の領内に差し掛かったところであった。
供の侍従が約十人ばかり付き従う。

そのときである。
先頭の侍従が道の真ん中に平伏している1人の侍を見つけた。
「何者じゃ。この方が城代家老諏訪様と知ってのことか。」
厳しく叱りつける。
男はその言葉に全く反応せず、ゆっくりと頭を上げた。
「そなた・・・高村仁左衛門とか申すこの地の庄屋じゃな。」
諏訪頼重についている侍従の1人が言った。
「いかにも。私、高村仁左衛門と申すもの。正の名は『武田常篤』と申します。信玄公より受け継ぎし白桜の伝承者なれば・・・本日諏訪殿のお命を貰い受けにきた。」
「・・・なにを!」
これを聞いた侍従たちが怒りの形相で常篤をにらみつけ、まわりを取り囲んだ。

それを一瞥した常篤は、刀の柄に手をかけた。
「信玄公よりお預かりした白桜の剣。今、ここに悪を誅せん!」
そう叫ぶとともに、すらりと抜かれた刀身は、白銀の刃に桜の桃色が写りこみ、まさに『白桜』と呼ぶにふさわしい剣気をもって、まっすぐに諏訪に向けられた。
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