きみと、もう一度


 たった一週間足らず。

 二十歳から一五歳になってまだ数日。なのに、幸登と一緒に過ごした日々は、まるで夢だったかのような儚げな色を感じさせた。遥か遠い昔の記憶。けれど、五年後に起こりうることでもある。

 会話は減ったけれど、彼はいつも家にいてくれた。

無理やり話しかければ渋々でも耳を傾けてくれた。

相談すれば、はっきりと自分の意見を口にしてくれる。それが傷つく答だったこともあるけれど、本音を話してくれるってことは、真剣に聞いてくれているということだったのかもしれない。

 履いていく靴で悩んだら、「どうでもいい」という。それは本当にどうでもよかったんだろう。考えた結果の答だったのだろう。

悩みだすと止まらなくなってしまうわたしにとって『どうでもいい』と言われると、どうでもいいか、と気持ちが軽くなったときもあっただろう。


 今坂くんのように、優しい人ではなかった。
 でも、優しくない人ではなかった。


 未来を変えようと思った。

 けれど、ほとんど状況は変わらないまま今日まできてしまった。

 ただ、たしかに変わったことはある。今坂くんとでかけたり、セイちゃんの家でケンカをしたり、幸登と、出会ったり。

 明日からの未来がどうなっていくのかわたしにはわからない。多分、わたしの記憶にあるようなことがあったり、なかったりしていくんだろう。

 出会うべき人と出会わなかったり、知らなかった人と友人になったり。幸登と、もう二度と出会えなかったりするのかもしれない。



 この先、わたしと幸登の未来が交わらなくなったとしても、きっと幸登だったらすぐに、だれかと幸せになれるだろう。幸登を好きになる人は、たくさん現れるだろう。

 ――わたしが、好きになったように。



「会いたい、な」

 もしも、もう二度と会えないのだとしたら、今日、会えたらいいのに。いつか会えたらいいのに。

 悩んだとき、なにかにぶつかって落ち込んでいるとき、会って、話を聞いてくれたらいいのに。


 わたしが思い描いていた〝今より素敵な未来〟って、どんな未来だったのだろう。

 五年前のわたしではなく、今、ここにいる二十歳のわたしは、ここでなにをしたかったのだろう。

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