碧の記憶、光る闇
天井にはお気に入りの海外アーティストのポスターが貼られ、モノトーンでまとめられたシックな家具類が整然と窓際に並べられている。

ベッドに横たわったまましばらく荒い息を続けた碧は、そっと両手を目の前にかざした。

その血が滲む程強く握り締めた手の平にべっとりと汗が染み、小刻みに震えているのが見える。

後頭部が痺れる様な鈍い頭痛と吐き気に耐えながら上体を起こした碧は、緩慢な動作で体に巻き付いたシーツを剥ぎ取った。

梅雨に入る直前の湿った気候が妙な生暖かさを伴い、部屋の空気全体が停滞しているようだ。

汗でずぶ濡れになった長袖のTシャツを苦労して脱いだ碧は上半身裸のまま深くため息をついた。

(また今朝も同じ夢…一体どうしちゃったんだろう)

事実、ここ数週間ばかり決まって同じ夢でうなされながら目覚めていた碧は、いい加減現実と夢の区別が理解出来る様になっていた。

しかし理解していても身を覆う恐怖はどうする事も出来ず睡眠時間の減少と比例して体重も少しずつ落ちている。

あの鬼…と言っても絵本に出てくるような角の生えた鬼ではなく、ただ漠然と血走った瞳や逆立った髪がフラッシュバックのように脳裏に刻まれるだけで、これほど夢を見ているのに、目覚めてから容姿を思い出そうとしても、思い出すのは唸り声ばかり。
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