碧の記憶、光る闇
「じゃあな、また明日学校で」

長旅の疲れからか幾分枯れた声でクラスメイトに別れを告げた和哉は自動販売機の角を曲がって家路に急いだ。

二泊三日の日程で京都へ修学旅行に行ってきた直後だけにこれから遊びに行こうかという気力は残っていない。

行き道のバスの中では大騒ぎして先生を困らせた和哉たちもさすがに未だ小学校6年生の子どもだけあって帰りの車内は居眠りをする子達で一杯だった。

お土産で一杯になったボストンバッグを重そうに方にぶら下げ、玄関のドアを開けた和哉は母の夏美がいきなり目の前に現れて驚いた。

「あら、おかえりなさい。ごめんねお母さんちょっと出かけるの冷蔵庫にケーキがあるから食べといてくれる」

「うん・・・それはいいけど、何処行くの?ああ、ただいま」

まだただいまを言ってなかった事に気付き和哉は慌ててバッグを床に置いた。

よく見ると母の夏美もかなりの大荷物である。しかも何処となくいそいそとして、まるで修学旅行に行く前の和哉のような表情。

「お母さんなんだか嬉しそう。何処か遊びに行くの?」

「遊びにじゃないんだけど・・・お父さんの所なんだけどね」

「病院?お母さん何処か痛いの?それとも誰かのお見舞い?」

父の肇の所という言葉を聞いて和哉は怪訝な表情をした。妹の碧が交通事故で他界し、それを機に沖田一家は大阪の豊中から和歌山県南紀の新宮市に移り住んだ。今から5年前、和哉が6歳の時の話しである。

事故の原因については肇や夏美も多くを語らず、詳しい真相は和哉もよく知らなかったが、幾度となく深夜に言い争う二人の怒声を聞いては布団を頭からかぶり空想の世界に浸った。

聞きたくなくても耳に飛び込んでくる内容を子どもなりに解釈するとどうやら夏美が肇を責めているようで、そんな日を繰り返しているうちに当初持っていた肇の後を継いで医師になりたいという夢はしぼんでいった
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