碧の記憶、光る闇
「おい、お前記憶喪失なんだって?本当は思い出してるのに格好つけてるんじゃないのかよお」

無邪気な子どもは時として他人の心を冷酷に切り裂く。

この手の話題にはもう慣れっこになっていた碧だったがそれでも、言い返すいい言葉が見つからずに涙を浮かべた。

自分が沖田家に住みだして1年が経った。それまで一緒に学校に通ってくれていた兄の和哉が中学生になった為、一人で登下校する回数が増えるの比例して、記憶の無い碧を中傷したり誹謗したりする輩は増すばかりである。

沖田家には元々一人っ子の和哉しかいなかった為、女の子をほしがっていた両親が碧を引き取ったという話しはたちまち小さな新宮市にひろがった。

(もしおじさんとおばさんに女の子がいたら私は施設に入れられてたのかなあ)

1年がたっても未だ二人をお父さん母さんと呼べず、それでも決して二人に心を閉ざしているわけではなく、夜寝るときには必ず夏美の腕に抱かれて眠りに落ちた。

一人で寝ると何かしら鬼のような恐怖に追われてうなされるのだ。

碧はずっと長い永遠とも思える時間を夢の中で逃げ惑っていた。

何から逃れたいのか、迫りくる恐怖はいったい何処からやってくるのかわからず、ただ必死に逃げているうちに病室のベッドで目がさめた。

夢を見る前は何をしていたのか思い出そうにも後頭部が痺れて何も考えられない。
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