碧の記憶、光る闇
自嘲気味に弱々しく笑う。

「馬鹿なことを言うな!碧は何処も壊れてなんかないよ。大丈夫だって、絶対に大丈夫だって」

「でもやっぱり碧ちゃんの過去に何かの原因があってそれが尾を引きずっているんなら、はっきりさせて治療した方がいいんじゃないかな」

「なんだと金沢!お前碧を病院に入れろっていうのか!」

「やめてよ二人とも。此処は家の中じゃないのよ。けんかするんなら外に出て…和哉さんも雅彦さんもふたりともどうしたのギスギスして」

静香が二人の間に割ってはいる。それでもにらみ合った男二人は互いをけん制しながら唇をかんだ。

自分のせいで仲のよかった二人が喧嘩した事に碧は責任を感じていた。

自分が気持ちをはっきりさせず、雅彦にも嫌われたくないばかりに態度をうやむやにしてきたのが悪いのだ。
雅彦とは一度話をしなければと思いながら立ち上がった碧の目に、フロアに広がる深紅の液体が映った。それに反射する自分達の顔、シャンデリアの光、天井の電飾…。

「頭が痛い…」

遠い昔、肇の病院に入院しているころ、記憶を辿ろうとしては襲われた猛烈な頭痛が久しぶりに碧に蘇った。

激しい痛みに目を閉じながらも何故か懐かしいような感覚さえある。

後頭部が痺れるような痛みにじっと耐えながら、数分やりすごした碧はゆっくりと目を開けた。再び暗闇が広がっているかと思ったが幸いにもそこには和哉の心配そうな顔が。

「痛いか?」

「ううん、もうおさまった」

和哉に支えられながらゆっくりと立ち上がる。少し足元がふらついたがなんとか椅子に座る事が出来た。

店員が持ってきてくれた冷たいお絞りを両目に当てて深い深呼吸をする。

3人は碧を心配して何も声を掛けずじっと様子を見守った。そして数分後顔をあげた碧はある決意を抱いて3人の顔見た。
< 82 / 111 >

この作品をシェア

pagetop