山賊眼鏡餅。
足場の悪い坂道を歩くのは、疲れる。



インドア派の私が、今月に入って3回目の登山だ。




どうしてこんなことをしているのだろう。


自分でもよくわからなかった。


相手は怪しい黒装束のナンパ男だ。



たしかに美形だったが、普段の私だったら、見知らぬ男のために山に入ることなんて決して無いだろう。


彼に、何かひかれるものを感じているのは事実だ。




山頂に、ハジメはいなかった。


鳥居のまわりも、展望台になっている広場も、神社の裏も、一回りしてみたが、ハジメの姿は見当たらない。



中学生の悪そうなカップルが隅のベンチでいちゃついているだけだ。


茶髪で小柄の少年と、ミニスカートでまゆげの薄い少女。


彼らは、私の姿に気付くと、いちゃつくのをやめて、大声で中間テストの話を始めた。




「国語、マジ、漢字ヤベーよ」


「そうそう。ヤバいよね……」


「英語、マジ終わってるんだけど」


「先生の体臭がきついよね……」




私がいなくなったら、またいちゃつくつもりなのだろう。


ちらちらと私の様子をうかがっている。


人の恋路を邪魔しているような気がして、私は、山頂の広場を後にした。



虚しさだけが残った。
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