僕らの背骨
第六章 田辺正樹

{11月1日 PM 10:26}

正樹は店に入ると美伽に視線を向けた後、店内を見回した。

都内にあるその洒落たレストランバーにはまだキャパシティの七割程度の客が残っており、正樹が美伽に通された席も、両隣には別の客が居座っていた。

「珍しいね?あんたがお姉ちゃんの店に来るなんて…。」
美伽は自然な振る舞い方で弟を歓迎した。

「…ちょっと腹減った。」
正樹は視線を美伽に向ける事なくそう呟いた。

「ふ〜ん…、はいよ!ちょっと待ってな。」
美伽はそう言うと店の奥に行き何やら店員に指示を出して、すぐ正樹の席に戻って来た。

「…ばあちゃん死んだの今日だろ?」
正樹は言った。

「あれっ?覚えてた?偉いじゃん!」
美伽はまるで小さい子供をあやすように言った。

「覚えてるよ…。だから来たんだよ…。」
正樹はふて腐れた表情をしながらそう言った。

「…おばあちゃんの命日だから?…わざわざ?」
美伽は分かりやすい疑いの目を正樹に向けながら対面の席に座り、そう言った。

「…おぅ。」
正樹は今だに美伽と視線を合わさず言った。

「嘘つけ…。あんた別におばあちゃん好きじゃなかったでしょ?」
美伽は見透かしたように言った。

「…うるせぇな。だから腹減ったっつってんだろ。」
正樹はようやく美伽に視線を合わせて言った。

「今作ってるよ!すぐ出来るからちょっと待ってな。ていうか何?お金?」
美伽は言った。

「ちげぇよ!だからばあちゃんの命日だっつったろ…。」
正樹は悩み事を聞き出して欲しいという思惑を僅かに匂わせながらそう言った。

「はいはい…。で?なんかあったの?…話してごらん。」
美伽は最後の言葉だけに重みをつけ、効率の良い聞き出し方で正樹を窘めた。

「…………。」
正樹は無言になり、悩み事の存在だけを取り敢えず美伽に示唆した。

「なんか飲む?」
美伽はゆっくり聞き出す覚悟をしながらそんな気遣いを見せた。

「…ビール。」
正樹はダメ元でそう言った。

「馬鹿言ってんじゃないよ!ガキはコーラで充分だよ!」
美伽はそう言ってカウンターに身を乗り出すと、コーラの瓶の栓を抜き、それを正樹に差し出した。

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