光を背負う、僕ら。―第1楽章―
でも、いつまでも現実から目を逸らしているわけにはいかない。



だからあたしは覚悟を持って、言葉を紡いだ。




「…うん。気付いたよ。」



「…そう。どんな違いがあった?」



「遅れてるんだよね、右手だけが。時々だけど、右手で弾く旋律だけが半テンポぐらい遅れてた。」



「そうよ。よく気付いたわね。」



「………。」




お母さんは笑ってそう言ってくれたのに、あたしは笑うことが出来なかった。



むしろ複雑な心境だった。



違いに気付けたのは、確かに嬉しい。




でも…やっぱり……。




「…ごめんね。こんな風にしか事実を説明出来なくて。」




あたしの様子を伺いながら、お母さんはそう言った。




「……ううん、いいよ。事実を知ることは出来たんだから。」




お母さんがあまりにも申し訳なさそうに言うものだから、あたしもそうしか言えなかった。




それに、いつまでも過去にこだわっていたって意味ないよね。



たとえ信じることが出来なくても、たとえ初めて聞くことでも、真実は真実。



これが現在(いま)であることには違いない。



だったらそれを、ちゃんと受け入れよう。





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