光を背負う、僕ら。―第1楽章―
なんだかそれが、すごく嬉しかったの。



あたしのピアノが、認められたような気がして。




…ほんと、不思議だよね。



あたしのお母さんが笹川詩織だってことは、バレてはいけないことなのに。



…少し、本当に少しだけど。



それがバレてもいいって思ってしまう自分がいた。




「君は本当にあの頃の笹川詩織に似ているよ。ピアノだけではない。…真直ぐな、その瞳もだ。」




学園長はあたしの身長に合わせるために少しだけ屈む。



いきなり瞳を覗き込まれて、少し驚いた。



あまりにも熱心に見つめてくるから、気を抜けば嘘まで見抜かれてしまいそうだ。



ずっと隠し続けている、あたしの秘密。



さっきバレてもいいって思ったけど、撤回します。



…バレたら、かなり大変です。


特に、今の状況では。




「…嬉しいお言葉、ありがとうございます。あの笹川さんと似ていると言われ、光栄です。」




秘密を隠すために、また嘘を塗り固める。



あたしは秘密がバレないように、作り笑いをしてそう述べていた。



だけど、本当のことも少しだけ混ざっていたよ。



“嬉しい”



その気持ちだけは、本物だった。





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