泣いたら、泣くから。

一章-3



「いーちーかっ」
「いやだ」
「まだなにも言ってないんだけどー!」
「言おうとしてることくらい、おおよそ見当がついてるから」


 私はくっついてきた友人を無理矢理引き剥がして掃除に専念する。
 夏休みの掃除は、普段より厳しいチェックが入るのだ。
 担任に点検をしてもらい、さらに合格をもらわねば帰れないことになっている。だから。

 ……もっと真剣にやれ。


「ちょっと一花ー。話だけでも聞いてってー!」


 無視を決め込む。
 女に猫なで声でおねだりされてもなんの情もわかない。


「聞いてくれないならもうあたしから言っちゃうもんね。一花。一生のお願い! 一緒にカラオケ行って」


 やれやれ、一人芝居をはじめたぞ。

 やはり私の予想は大当たりだった。たしか前回はファミレスだったか――今回はカラオケらしい。

 ぱちんという音を背中に聞いた。手を合わせてまで頼み込んでいるらしい。哀れだ。
 友人を誘うだけなのに一生をかけるか普通。安すぎるだろう。

 ――しかし、私はあくまで無視を続行する。


「うわ。マジであたしシカトされてる。ねえお願い一花聞いてー!」
「こっこら掴むな、暑いじゃん!」
「あっやった! シカト解除成功~」
 

 笑顔でピースを向ける友に、しばし開いた口がふさがらなかった。
 そして。


「一花、カラオケ行ってくれるよね?」


 懲りずにチャレンジする友人を見、私は思いきり脱力した。






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