泣いたら、泣くから。
「すいません。体育委員の杉下君、いますか?」
私は完成した体育祭の割り当て用紙を学年代表に提出しに来たのだ。
男子は先に終わっていたので私がまとめて持って行くことになったのだが、
「男子の分も頼むわー」
と私に紙を渡す様子を見ていた咲希は猛烈な勢いでクラスの体育委員を睨み付けていた。
ドアに寄りかかって出てくるのを待っていると、不意にやけに背の高い坊主男が近づいてきた。
「俺になにか用――あー、割当? 確か中澤さんだよね。えとクラスは――ああそうそう5組ね。確かに受け取りました」
渡した用紙に視線を落とし杉下は頷いた。
用事が済んだので帰ろうと私は小さく頭を下げ、踵を返した――そのとき。
「おー4組も持ってきたな」
4組の体育委員という男子生徒がすぐ後ろに立っていた。
不意に目が合った――が、なにが起こるでもなく、私は右に、相手は左に一歩を踏み出し、なんなくその場を通り過ぎた。
しかし廊下でふと立ち止まり、私は後ろを振り返った。
――あの男子、どこかで見たような……。