しずめの遭難日記
第三話 ホワイトアウト
 ―2月23日―
空も、地面も白くなってしまい、全く境目が見えなくなった状態を『ホワイトアウト』という。
 今日も、目が眩む程の晴天。だが、風の強い日だった。
 父は朝から空を睨み付け、目的の山の頂上を見据え腕組みをしている。
「山を降りよう」
 父の言葉は唐突だった。
「ええ~ッ!」
「ええ~ッ!」 
 私と女は息を合わせたわけではなかったが、つい同じタイミングで、父へ不満の声を上げる。
 父は、声を揃えて抗議する私達に苦笑いを浮かべたが、目だけは真剣に山を見据えている。
「風がだいぶ雪を巻き上げている。雪崩の危険性もあるし、もうすぐ天候が崩れてくるかもしれない」
 父はそう言うと、側にあった雪を掴み、それを風に曝す。すると、雪は粉のようにサラサラと風に運ばれていく。
「でも、頂上はすぐなんだよ?ちょっと行ってくるだけじゃない」
「そうですよ。それに、危険だと言うのなら、頂上に行くだけ行って、海が見えても見えなくても、今日はそのまま山を降りるという事でどうでしょう?ここまで来たんです。頂上まで辿り着けなかったら一生の悔やみになりますよ」
 私と女は、交互に父を説得し、父は終始困った顔をしていたが、最後には私と女の押しに折れ、頂上に行くだけ行ってみるという話で決着がついた。
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