しずめの遭難日記

誕生日

―2月25日―
 今日は私の誕生日だ。
 昨日私は誕生日プレゼントの代わりに、この吹雪が止みますようにと神様に願ってみたのだが、意地悪な神様は私の願いを叶えてはくれなかったらしい。やはり、にわかクリスチャンになって、普段信仰していない神様にお願いしたのが間違っていたのだろうか?
 普段なら、誕生日には母の作った特製ケーキと、父が腕によりをかけて美味しい料理を作ってくれるのだが、この状況下でそれを望むのは難しい。何より問題なのは、私達が今回の登山に用意した食料は三日分しか持ってきていなかったのだ。非常食や、食べ物の残りがあると言っても、それも三人で分ければ僅かしかない。
「今日は、しずめちゃんの15歳の誕生日ね?お誕生日、お祝いしましょうか!」
 突然、女が思い立ったように声を上げると、痛い足を引きずりながら立ち上がった。
「は?何言ってんの?プレゼントも誕生日ケーキもないのにどうやって祝うわけ?下らない事言わないでよ!」
 私は、突拍子もない事を言い出す女に、わざとキツクあたる。でも、ちょっとだが、女が私の誕生日を覚えていた事に驚いた。
「………プレゼントなら……ある」
 父はそう言うと、ゴソゴソとリュックの中をあさりだす。そして、リュックの奥の方から、何か赤い袋のような物を取り出した。
 私は思わず目を丸くした。普段余計な物は登山に絶対持って行くなと言っていた父が、自分のリュックに私へのプレゼントを忍ばせていたのだ。まぁ、父の事だ。おそらくは私に隠す目的でリュックの中に入れて置き、取り出すのを忘れていたというのが真相だろうが…。
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