世紀末の恋の色は
時同じくして、アルフレートの姿はレナの括られていた犠牲の柱の側にあった。

暫く雪が降っていなかった為、柱の周りには狼狽した人々の足跡が幾つも見て取れる。

それは、彼がレナを連れ去ったからに他ならない。


「……臭うな」


赤い瞳を細めて、彼は柱の周囲を見渡す。

痕跡は、生木の上部に見つけることができた。

深く深く、爪で抉られたような傷跡。

それはおそらく、花嫁をさらわれた吸血鬼が苛立ちのあまりに付けた傷だろう。

注意深く見渡せば、人ならざるモノの痕跡は、それ一つではなかった。

立ち木にもまた別の爪痕が残り、そして。

片膝をついたアルフレートがその手で払い除けた雪の下には、赤く凍り付いた雪が隠されていた。


「奴等は複数、か」


呟きながら立ち上がり、アルフレートは膝についた雪を払う。

一度村の様子も見に行くべきだろうな、血痕を見下ろしながら彼はそう思案する。

やがて赤い瞳は空へ向けられる。

今日もまた彼がレナを拾った日と同じく、鉛色の空は今にも落ちて来そうだ。

明日は、吹雪かも知れないな……くるりと彼がきびすを返しかけた時、ざっざっと雪の上を駆けて来る足音。


「二人、難しそうだな」


ぽつり、と彼はそう呟く。

同時に一陣の風が吹いて、積もった雪をわずかに舞い上げた。


「…っかしいな、確かに人影を見たんだが」

「誰もいないぞ、見間違いじゃないか?」


一瞬の後、柱の空き地に二人の猟師が現われる。

だが、そこにもうアルフレートの姿はない。


「でもよ。この足跡、おかしくねえか?」


人影を見たと主張していた猟師が、雪の上に残ったアルフレートの足跡を指差す。

彼らが入って来たのとは逆の方向の森から空き地に続いている足跡。

片膝の付かれた跡も、同じ場所に暫く立っていた跡も残っている。

しかし。


「冗談はよしてくれ……」


もう一人の猟師が茫然と呟く。

その足跡は、空き地の中央で元来た方向に向き直っている。

……そしてそこから、足跡は忽然と掻き消えていた。





Fin.
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