世紀末の恋の色は
「おはようございます、レナ様。と言っても、もう昼前なんですがね」


彼女の眼前に、満面の笑みを浮かべたセシルが立っていた。


奇声が高速で喉元へせりあがって来る。

今にも叫びだしたい衝動を押し殺して、レナは何とかまともな声を絞り出そうと苦心した。


「お、はよう、セシル。って、もう昼なの?」


そういえば、窓から差し込んでいた陽の強さは冬の朝のものではなかった。


「ええ。まあ、アルフレートの寝室に連れ込まれてしまわれたのなら、仕方ないかと思いますが」


にっこり笑って、セシルは不穏な発言をする。


「あの、別に何もなかったから。それより、ここって、アルフレートの寝室だったの……?」


廊下を歩き始めたセシルに続きながら、レナは俯いてまた顔を赤らめる。

ならば先程自分が寝かされていたのはアルフの寝台だろうか。

自分の回りを包む匂いは、アルフの。

彼女の頬から、暫く赤みは引きそうになかった。

そんなレナの様子を時折視界の隅に入れながら、セシルは何も言わない。

やがて彼はレナを食堂へ案内すると、簡単な食事の用意を整える。

その間もレナはずっと心ここにあらずといった調子で、セシルは一つ溜め息をつくと、レナのカップに紅茶を満たしながら、輝かんばかりの笑顔を作った。


「レナ様、もしかしてアルフレートのこと好きになってしまいましたか?」


案の定、レナはぴしっと音を立てて硬直してしまう。


「あはは、レナ様は可愛らしいなあ」


セシルの軽口も、レナの耳には半分程も届いていないようで。

だから、セシルが少しだけ瞳を曇らせたのにも気付かない。


「好き……?
 私、アルフのこと好きなのかな……?」


その表情も、レナが自問を始めた頃にはいつもの笑顔に戻っている。


「それはレナ様御自身でなければ分からないことです。まあ、アルフレートはレナ様のことを決して嫌いではありませんから」



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