【天使の片翼】

それからさらに数ヶ月を経たカナンの城は、いつもと違う様相を呈していた。


すでに、太陽が沈んでからずいぶんと時間が経過している。

満月がぽっかりと顔を出し、城の随所に灯された灯りが遠くからでも見渡せるその時刻。

いつもなら、城の人々は寝台へと体を沈めているはずなのだが、

今夜はまるで真昼のように、大勢の人間があちこちを走り回っている。


「しっかりしろ、リリティス」


時折辛そうに顔をしかめるリリティスの手を握り、カルレインが小さくつぶやく。


まだ始まったばかりの陣痛は、間隔も長く、一度おさまれば次の痛みがくるまで普通に会話ができる。


「母様」


不安げな声を出して、ファラはカルレインと反対側のリリティスの手を取った。

弟が産まれたときはまだ幼くて、ファラの記憶にはない。


「大丈夫よ、ファラ。きっと無事に産まれてくるわ」


リリティスは片腕にファラの頭を抱きかかえる。


数名の侍女以外とともに、リリティスの傍らにはカルレインとファラ。

寝台の周りには、3人の子ども。

そしてなぜか、少し後ろに、ソードとレリー、それにソランの姿がある。




< 364 / 477 >

この作品をシェア

pagetop