飛べないカラスたち
*



少し遠く、それでも体内から人工呼吸器の止まった時の音をもっと歪に捻じ曲げたような、独特な高音の電子音が響く。


それを頭の中で数えていた数字に1を足して計算していると、目的地へとたどり着きシュッ、と体重移動だけでブレーキを掛ける。


肌寒い風が、バイクシューズでの移動のお陰で余計に冷たく、頬が痛い。


あと2人。


4度目の電子音を聞いて、そう、心の中で呟く。その内の1人はこの扉の奥にいる。


決して綺麗とはいえないアパートの一室。


木製の薄そうなドアの近くには、安そうなインターフォンが取り付けられていて、ジャックドーは何の躊躇いもなく、それを押した。



ビィ――。



薄い木のドアのお陰で、中に響いたチャイムの音もよく聞こえたし、人が動く気配も聞こえた。


すりガラスの小さな窓から室内に明かりが灯ったのがわかり、ガラス越しに、食器洗剤が置かれているのも見える。


黒い影は蠢き、ノブが自動的に動いて、ドアを一枚隔てたそこで、ターゲットが立っていることを静かに知らせる。


微かに開いたドアに指を突っ込んで強引に開くと、30代ほどの、よく肉が付いた男は驚きの声を上げる前に尻餅をついた。


よれたシャツと、少し色が褪せてきた水色と白のボーダーの短パン。肩にはタオルが掛けられている。




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