人魚の涙 ~マーメイ・ドロップ~

目が覚めて。

…どのくらいの間、僕は気を失っていただろう。

僕はあの後、どうにか助かったらしかった。もちろん、どうして助かったかという記憶は、微塵もない。

呼吸は出来ることから、地上にいることはまず間違いなかった。
目を開けようとするが、瞼が重く、僕の目はなかなか開こうとしない。なんだか、とても眠いような気がしていた。

どうにかゆっくりと開いた目に、暖かに燦々と輝く真昼の太陽は眩しすぎた。
僕はもう一度目を閉じ、ころりと寝返りをうった。
頬に砂浜のざらざらとした感触が伝わる。それはちょうどよい程度の摩擦で僕の肌をくすぐり、僕の眠気を余計に誘った。




―――今日はこのまま、寝てしまってもいいかな………?

自分にそう問い掛けてみる。だがもちろん、ここで自分の欲望に甘んじる訳にはいかなかった。
なぜなら、まだ僕はこの地に慣れていないからだ。
そんな状況で、どこかもわからない場所で寝るだなんて、これからの展開がどうなるか予測出来たものではない。




僕は自分にそう言い聞かせ、立ちたくないと駄々をこねる腰をゆっくりと上げて、辺りを見渡した。

すると、どうやらあの後僕の体は、先程飛び込んだ場所の真下にある岸に流れ着いていたのだということに気が付いた。
ここからなら、家に引き返すことも容易に可能だろう。
僕は胸を撫で下ろした。








そうとなれば、自転車の所へ戻ろう。そう考えるが早く、僕は防波堤に続く階段へと脚を伸ばした。
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