隣のヤクザさん

車内





窓を開けると、生ぬるい風が車内に流れ込んできた。

「冷房、ききすぎました?温度上げましょうか?」

運転席の和泉さんが振り返らずにそう言い、俺はしずかに首を振り、大丈夫ですと答えた。

和泉さんがそれに小さく頷くと、二人きりの車内には再び沈黙が流れた。


家を出てから、ずっとこの調子だ。会話のキャッチボールは一回で終わってしまう。

何だか申し訳ない気持ちになりつつも何を言っていいのか分からない俺は、ただ窓の外の見知らぬ景色をぼんやりと見つめるだけだ。


信号が狭い道路にぽつぽつと立ち、何故か乳母車を押して歩くお婆さんや、虫取り網を持って車道を走り回る小学生ばかりが、ただ穏やかで美しい、緑に囲まれた田舎の景色に溶け込んでいる。

俺はそれに目を細めて、小さく息を吐いた。





ここが、今日から俺が暮らす町だ。







赤信号で停車すると、和泉さんは首だけ動かし、後部座席に座る俺に顔を向け、何ともいえない複雑そうな表情をして
戸惑いがちに口を開いた。


「…いろいろ、不慣れなこともあるでしょうから…何かあればいつでも連絡してください。」




鬼と呼ばれる和泉さんの口からそんな不安げな声を聞くのは初めてで、若干戸惑った俺は、間を置き小さく頷いた。




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