髪を切った日

私は、兄の胸にしがみつくようにして泣いた。
声をあげて、泣きわめいた。

あの人が好きだと言った長い髪。
あの人との思い出。
全部が全部、もう戻らないもの。

それが悲しくて、辛くて。
あの人の前で素直に泣くこともできなかった私が嫌で、悔しくて。
代わりに泣いてくれた兄に申し訳なくて。
泣いて、泣いて、泣いた。

「あり、がとう」

兄の胸の中で繰り返す。
兄は、もう何も言わなかったし、もう泣いてもいなかった。
ただ、私を受けとめてくれた。

兄の優しさに、また涙が溢れた。
この人は、きっと何もかもわかっていたのだ。
辛くてしかたがないこと、どうしようもなくあの人が好きだったこと、我慢していたこと、それらを全部封じ込む為、髪を切ったことを。

お兄ちゃん、ありがとう。

支えてくれる人がいる、受けとめてくれる人がいる、私の為に泣いてくれてる人がいる。
きっと、私はもう大丈夫。
あの人と過ごした日々は戻らない、戻れないけど。
この涙を、暖かさを覚えておこう。
兄が気付かせてくれた、この涙を。

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