YIH
Doubtful Fragrance
僕は今、車に揺られている。運転は哉勒さん、助手席に藍嘉さん、右に綾兎さん、そして、左に不機嫌そうな椋汰さん。
早朝の椋汰さんはあらゆる意味で凄まじい。彼に合わせて《BLANK》の練習時間を決めているほどだ。
椋汰さんにとって日の出前の外出など、本来ならばありえないことなのだ。彼がそれでも動いた理由は、巳波組から通報があったからである。
「つーか何なの!何で唄子ちゃんが浚われなきゃなんないわけ?マジ誘拐犯ぶっ殺してやる」
「アイさん、落ち着いて」
「落ち着いてるハクの気がしれねぇよ!」
「おいアイ…言葉乱れてんぞ」
「アヤちゃんなんか死んじまえ」
「…泣いていいかな?俺」
尤も一番手に負えないのは藍嘉さんなのだが。まあ、あの日少ししか話せず、再訪問を約束した唄子さんが誘拐されたとなっては、やはりどんな理由があっても許せないのだろう。
荒れた藍嘉さんを宥めつつ、いじけた綾兎さんを慰めていると目的地に到着。今回はきちんと門が開いていた。
「お待ちしておりました」
多くの綺麗な女性に出迎えられ、中でも際立って美しい人に屋敷内を案内されることになった。
「申し遅れましたが、私は佳乃と申します。只今主人をお連れ致しますので、何かありましたらお呼び下さいませ」
「あ、はい」
律儀に返事を返したのはやはり僕だけで、他のみんなは各々に不機嫌そうだ。佳乃さんは深々と頭を下げ、襖を閉じた。
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