恐怖 DUSTER
「だぁ~れだ?」八章
「それからの私は、毎日麻美の中にいる、もう一人の麻美を意識して会話をしたのよ」


「相変わらず表の麻美は無反応だったけど構わずいろんな話を続けた。心の中のもう一人の麻美が聞いている気がしてね」


「そしてある夜の日に、私はもう一人の麻美と出会ったの・・・」


「出会った!病院で?」


予想だにしない麻美の言葉に弥生は驚く。


「う~ん・・・病院だけど病院じゃないのかな・・・?」


・・・病院だけど病院じゃない・・・?


訳の解らない恵子の言葉に弥生は戸惑う。


「つまりね。もう一人の麻美と出会ったのは、私の頭の中なのよ」


「頭の中?」


「そう、ある夜の日にね。私が眠っていたら突然、頭の中に麻美が現れて話しかけてきたのよ」


さらに訳の解らない事を恵子から言われて、弥生の思考は不可解の泥沼へと落ちていった。


「そ、それは恵子の夢ってこと・・・?」


そう弥生に問いかけられ、少し考え込んでから恵子は答えた。


「夢とは違うかな?・・・私も最初はこれは夢なんだと思っていたんだけど、私は麻美が頭の中に現れた途端、驚いてすぐにベッドから起き上がったのよ。そしたら頭の中に現れた麻美は消えてしまった・・・?」


「麻美が消えたという事は、やっぱり夢だったの?」


「それが違うのよ、私もまだ夢の中に入るのかと思ったから、私はベッドから起き上がってそのままナースセンターに行って、元の私だった38歳のベテラン看護士と会い話しをして夢の中じゃない事を何度も確認したんだから」


「麻美が恵子の頭の中に現れた時点までは夢だったんじゃないの?」


恵子に起きた出来事を、自身も理解できる答えを言葉にできて少し満足げな表情に弥生はなった。


しかし、その思いも瞬時に壊される発言を恵子は言った。


「でもね、私が病室に戻ってからも麻美は何度も現れたのよ」


「えっ?」


「だから、もう一人の麻美が私の頭の中に現れるのよ!寝てもいないのに何度もね」



恵子の言葉に、弥生の思考はいまだ不可解の泥沼から這い上がる事ができずにいた。
< 160 / 190 >

この作品をシェア

pagetop