ぼくの 妹 姫




ホテルに荷物を置いてから
タクシーに乗り
斎場へ向かう



斎場の前でタクシーを降り



喪服の人たちが
斎場のドアへ入っていくのを
ぼんやり見てた




この中に入れば
蕾に会える―――――――――






斎場の中を
一歩、一歩
足を進めた時の気持ちを
ぼくはうまく言葉に出来ない




鼓動があまりに早すぎて
逆に止まってるように
感じてた






祭壇には
穏やかに微笑む
叔父の遺影があり




弔問客に頭を下げる
親族側の席に
蕾を見つけた





「―――――――………」



ぼくは思わず息を飲み
呼吸をするのも忘れて
その横顔に見入った




茶色の髪を一つに束ね
変わらない白い肌に
大きな瞳


背が伸びて
黒い喪服のせいだろうか
大人びて見える――――――



いや、蕾は もう25
大人なのだ




ふいに蕾がこちらに
視線を向け




驚いたように目を見開いたあと
一瞬だけ柔らかく微笑んだ





通夜の席で
ぼくたちが会話をすることは
かなわなかった




ここにいる親族
皆が ぼくたちの過去を
知ってるからだ





それでも
蕾が そこにいる



気を失いそうなほど
胸が熱くなった






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