道標



  肆

「君の想いは何だい?」
 二つ目のトンネルへと入って行く。
「想い?」
 女の子は僕を見る。
「そうだね、もう少し分かりやすく言うと、願いは何だい?」
 車内には僕と女の子の二人だけ。
「何だろう……たくさんあるよ」
 二つ目のトンネルが遠ざかって行く。
「そう。それなら今、一番叶えたい願いは何?」
 電車は大きく左に曲がる。
「うんと、そうだなあ……ちゃんと家に帰ることかな」
 電車は鉄橋を渡り、道路の下をくぐる。
 そして三つ目のトンネル。
「お兄さんの願いは何?」
 僕は答える。
「君がちゃんと目的地に辿り着くことかな」
 二人で笑う。
「お兄さんって、結構優しいね。ありがと」
 窓の外が紅葉に変わる。
「僕はいつでも優しいよ」
 車内に笑い声が響く。
 トンネルを抜け、鉄橋。
 そして四つ目のトンネル。
 乗客は二人だけ。
 僕の一人旅は続く。
 そして僕の仕事も。


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