ばうんてぃ☆はうんど・vol.1〜地中海より愛を込めて《改訂版》
どこの世界に、フラれた腹(はら)いせに殺し屋雇う女がいるってんだ。
いや誤解(ごかい)すんなよ。過去(かこ)にそういう女の捨(す)て方をした経験(けいけん)があるとか、そういう意味じゃないからな。断(だん)じて。
ま、今はそれよりも――
「あかり。マルケスはまだ移動(いどう)してないか?」
「うい。ちょっと待って」
タブレットを操作(そうさ)する。しばらくペタペタやっていると、
「あれ?」
「どうした?」
「なんか圏外(けんがい)っぽい」
「圏外?」
「ついさっきまで反応(はんのう)あったのに、急におかしくね?」
「まあ確かにな」
電源(でんげん)を切ったのだろうか? しかしこれから取り引きに向かうってときに、電源を切るってのも考えにくい。他に考えられるのは……
『地下に入った?』
3人の声が見事(みごと)にハモった。
確かにそう考えれば納得(なっとく)できる。しかし一体どこへ?
やつはこれからバルセロナを出ようとしてる可能性(かのうせい)が高い。街を出るには、陸路(りくろ)か空路(くうろ)か海路(かいろ)。
まず陸路は、検問(けんもん)に引っかかる可能性(かのうせい)が高い。やつが自分の迂闊(うかつ)さを理解(りかい)していて、サツに居場所(いばしょ)を感づかれているかもしれないと考えれば、陸路は避(さ)けるはずだ。
次に空路。バルセロナには空港(くうこう)もあるが、空港は網(あみ)を張(は)られてパクられる率(りつ)が最も高い場所だ。やはり避けるだろう。
と考えれば、残(のこ)るは海路。金を払ってどこかの船に紛(まぎ)れこませてもらえれば、パクられる確率(かくりつ)は最も低い。海に出てさえしまえば、あとはどうにでもなる。
なるほど。だからやつは港近くにやってきたのか。
密航(みっこう)するなら夜が良い。闇(やみ)に紛(まぎ)れてしまうのが一番だ。今は夕方。日が沈(しず)むまでには、もう少し時間がかかる。どこかで時間を潰(つぶ)すとすれば……
「酒場(さかば)だな」
俺は一言、ぼそっとつぶやいた。
ディルクはうなずき、
「確かに。早い店なら、時間的にそろそろ開店する時刻(じこく)だ」
「ああ。恐らくやつは、そこで日が沈むまで時間を潰す気だ」
あかりは肘(ひじ)をついて両手(りょうて)に顎(あご)を乗(の)せ、ボーっとこちらの話を聞いている。
< 14 / 31 >

この作品をシェア

pagetop