ばうんてぃ☆はうんど・vol.1〜地中海より愛を込めて《改訂版》
バラクーダを停泊させている民間用のヨットハーバーは、ここから二つ(となり)の埠頭だ。急がなければ、どんどんマルケスとの距離(きょり)が遠くなる。
バイクへと()け出そうとしたその時、
「それならバラクーダに来てもらう方が(はや)くね?」
あかりが意味不明(いみふめい)なことを言い出した。
「は? 何言ってんだお前?」
「だからー。こっちから行くより、バラクーダにここまで来てもらう方が早いぢゃんって言ってんの」
言いながらあかりは、タブレットをペタペタやりだす。
バラクーダに来てもらう? 何やら嫌な予感(よかん)がするが……
「この間さー。面白いモン作って、バラクーダのECUに付けたんだよね」
なんだかコントローラーみたいなアプリを起動(きどう)しながら言う。
「何だよ。何付けたんだよ?」
「あかりちゃん特製(とくせい)、トランスジェクター。マジ最高傑作(けっさく)的な出来だからコレ」
あかりはタブレットに(うつ)し出されたジョイパッドみたいな部分(ぶぶん)をぐりぐりやりだす。
とらんすじぇくたぁ? なんかどっかで聞いたような記憶(きおく)が……。
「ほら、もぉ見えてきた。やっぱ向こうから来てもらった方が早かったって。ガチで」
あかりの目線(めせん)と同じ先を見ると――
やってきた。バラクーダが。スクリュー全開(ぜんかい)で。一直線(いっちょくせん)にこちらに。そして無人(むじん)で。
「のおおおぉぉぉぉ!! 何やってんだテメーわっ!!」
「何って遠隔操作(えんかくそうさ)。見りゃわかんぢゃん」
淡々(たんたん)と答えやがった。
思い出した。トランスジェクター。『ターミネーター3』で、T-Xが他のマシン(あやつ)るのに使ってた機能(きのう)だ。
バラクーダはすごい(いきお)いで、ぐんぐんこちらに(せま)ってくる。
「ただこれねー。操作(そうさ)ちょームズいんだよねマジで。気をつけないと……あ、やべ」
 
ごりがりぎりごりごぎぎぎぎいいいぃぃぃぃ!!
 
「いいいいいやああああぁぁぁぁぁ!!!」
バラクーダはその船体(せんたい)を埠頭のコンクリートにこすりつけながら、俺達の目の前で止まった。俺は頭を抱えて絶叫(ぜっきょう)する。
「なんっっっってことしてくれてんだ!! こんのクソガキ!!」
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