この世で一番大切なもの
「あっああっあああん」

俺はブスな女と繋がっていた。

見られない女と寝るのは、もちろん初めてではないが、何回やっても慣れはしないものだ。

愛のないセックス。

抱きたくもない女を、金の為に抱くセックス。

これほど虚しく精神を蝕む行為はなかった。

「リュージ気持ちいいっ、ああん」

必死に他の女を想像して、無理矢理自分のモノを立たせる俺と違い、女は強烈に感じている。

そんな女を見ていると、世の中の一番最底辺にいるような、落ちるところまで落ちたと思ってしまう。

ひょっとしたら刑務所よりもひどい世界に落ちた。

俺はそう思って叫びたくなる衝動に駆られる。

その感情を、女にぶつけるしかなかった。

こういう好きでもないブスな女を、抱かなくてはいけない俺を作りだした、世の中への怒り、悲しみをぶつけるしかなかった。

やがて俺は興奮などしていないのに絶頂にたっした。

もしかしたら悲しみの絶頂だったのかもしれない。

とにかく死んでしまいたい気持ちになった。

女に腕枕をする。

そう、俺はホストだ。

何だってできる。

「うれしい・・・・」

女は本当に幸せをかみ締めているようだった。

俺は女の、疑うことなどしない信じきった純粋な目を見て、なんともいえない気持ちになった。

俺はこの世で最も汚い存在かもしれない。

「今何時?」

女が聞いてくる。

時計を見て、

「三時だよ」

と俺は言った。

営業まで後三時間。

「ちょっと寝ようよ。嬉しくて眠くなっちゃった。ちゃんと五時ぐらいに起きよう」

そう言って俺は目覚ましをセットした。

「おやすみ」

女は抱きついてきた。

おそらく愛されずに育ったのだろう。

俺は女を強く抱きしめた。

しかし、俺はこのブスな女をどうしても好きにはなれなかった。

自殺してしまいたくなる。

今日だけは堪えるしかなかった。




< 25 / 35 >

この作品をシェア

pagetop