臆病なサイモン






時間は刻々と過ぎていた。

あれ以来、お互いに口を開いていない。

静かだ。

変わって行くのは、空の色だけ。





(――あ、陽が沈んだ…)

風の音しかしなくなった屋上は薄暗くなるが、街の強烈な光やグラウンドのライトがあるから、足元が見えなくなるほどじゃない。
練習試合が近いとか言ってた野球部が、その強烈なライトの下でまだ頑張っている。

この辺りは街圏内と比べたら静かだから、その中途半端な明るさも悪くなかった。
ド田舎ではないが、校舎のすぐ横にはでかい河川が流れていて土手もある、都会と田舎の中間地点。

春夏の土手には土筆や菫草が繁って、秋冬はススキが目立ってくる。
河の上流に向かえばトンボやアメンボが生息していて、場所を選べば泳ぐことも出来るイイ場所だ。
中一ん時は帰りにダチンコと一緒に泳いだりした。

でもなんと言っても、この高い位置から見える景色はヤバイ。

太い河が街の灯りに繋がっている様は、雄大で、静かな夜を迎えるのが怖くなくなる。
特に秋の、真っ赤な夕陽が反射してる時なんかは、自分がミジンコかありんこになった気分になる。

高層ビルがばんばん立ち並ぶ街の光が見えるこの場所は。



「…眩しい」


そう、眩しい――。




「…んん?」

俺声に出したっけ、と思わず横を見れば、ダンゴさんが立ち上がっていた。
翻るスカートの中身が今にも見えてしまいそうでいろいろヤバイ。


「だ、段……、さん」

見えるよ、秘密の花園(パンツ)。

と言いかけて、その険悪な表情に慌てて口をつぐむ。
空か街か河か、とにかくそれを睨みつけるように、ダンゴさんは口元に力を込めている。


なになになに!?

急に変貌した彼女についていけない。
怒っているのか、彼女からはフツフツと強烈ななにかが湧き上がっているようだ。
サイヤ人みたいな。


「…眩しすぎるね」

ジリ、と靴の裏で砂が擦れた音がした。
俺かダンゴか、どちらの靴かは解らない。


「星が見えない」

それでも怒る彼女は続けた。
俺には理解しようのないロマンチックな言葉だったが、到底そんな気分で吐き出してるとは思えない低い声だった。


「星なら、見えてるけど…」

俺は俺で、訳が解らないままそう返していた。

空が明るいとは言っても、星や月が全く見えないことはない。ネオンの遥か向こうでうっすらチカチカしてるのは確かに星だ。

多分、北極星だって見える。

ダンゴさんの地元がどうだか知らないけど、都会ナメんな。






< 30 / 273 >

この作品をシェア

pagetop