臆病なサイモン
見上げた空は、青く高い。
目ん玉が焼かれそうな白い入道雲がもくもく広がっている。
夏だ。
まだ蝉は鳴かないけど、多分、もう何日もしないうちに鳴くだろうなってくらい、夏。
暑いなー、て空気。
「あちぃスね」
「うん」
ふたりして汗ばみながら、そんなシンプルなやり取り。
キィーンコォーン…。
そこで会話は途切れちゃったけど、ホームルーム五分前の予鈴が鳴るまで、なんか気まずくなかった、俺達。
カァーンコォーン。
空が、高い。
俺がビビってたデジャヴは今日はナリを潜めて、ガラにもなく、夏空にぶっ飛んじまったんだろうなーて、詩人ぽく考えたりして。
「……サイモンくん」
屋上から出る寸前、ダンゴが俺を呼び止めた。
なに、て振り向いたら。
「ダンゴでいいよ」
真顔でそう言われた。
え、なにがなにが。
「……ダンゴって呼べば」
気にしないから、って。
あ、呼び方の話?
「あ、了解ス。ダン…段さ、じゃね、ダンゴさん」
ぽかーんて返事したら、ダンゴは笑った。
「さん要らない、サイモンくん」
なんかちょっと、気ぃ許してくれた感じ?
「くん要らない、俺、サイモン」
だから俺も、ちょっとだけ、譲歩。
「よろしく、サイモン」
にやり。「ダンゴ」がニヒルな笑みを浮かべてるのを見て、やっぱこいつは変わりモンだ、て再確認。
でもさ、ブラザー。
『うったくっぞ』
て、捨て台詞キメたダンゴは、マジでクールだったよな。
多分、だから、俺なりにちょっとキたのかもしんない。
憧れじゃないしジェラシーでもないけど、「面白いやつじゃん」、て。
でも、近付き過ぎたらまた「変人」に戻っちゃいそうだから、ボーダーラインは引いとく。
俺は「完全なる変人」から、「昔は変人だったけど今は凡人」に進化した(つもりの)「自己防衛型ニュートラル凡人系」。
そんでダンゴは、「変人」のまま素直に成長しちまった「ナチュラルに変人系」。
俺が幸せなのか、ダンゴが幸せなのかよく解らねーけど。
「あのクソアマがトイレでタバコ吸ってたの、先生にチクろ」
……断言する。
彼女はマジで、「性悪変人」の部類にしか入らねー。
な、ブラザー。
そう思うだろ。