臆病なサイモン







「段さん、じゃあひとまず、後ろの席に。そこ、今日欠席だから」

担任が転入生「段 このえ」に言う。

南国のド田舎から引越してきたらしい「段 このえ」は、クラスメイトの物珍しげな視線をさらっと受け流し、愛想笑いのひとつも浮かべない。

愛想笑いくらいしろよって、決して言いたいわけじゃねえ。

でも俺には「段 このえ」のその無愛想さが理解できなかった。
ダチンコひとりいない中にたったひとり放り込まれて、周りのやつらに媚びないなんてすげえ。けどあり得ねぇ。

わざわざ媚びなくたって、明け透けで人懐こいやつならすぐにダチンコも出来るだろうけど、「段 このえ」は、少なくともそんなタイプじゃねーだろ。

だからと言って人見知りでもない、照れてるわけでもない。


ただ、「興味がない」、みたいな。

中坊に似つかわしくないそのスッかした雰囲気が、穏やかで罪なきクラスにビシバシ叩きつけられてやがる。

やーだやだやだ。

気まずいしやりにくいし話しかけにくいし、空気、最悪。

俺、きらい、こういうタイプ。

だから、俺的にはもう、完全に、「アウト」、なわけ。



で、この時点で俺の興味は完全に「ダン ゴのえ」から逸れた。

つか、興味なんかはなっからないけど。

ただその無愛想さが、俺の八方美人ぶりを無言で責めているような気がしたのだ。

それはあくまで「そんな気がした」だけであって、確信があったわけじゃねえし、こういうの、なんていうのかも、俺は知ってる。

それでも気に食わなかったのは、初対面の「ダン ゴのえ」の髪色が、俺の父親にそっくりだったからかもしれない。

憶測でモノを語るのも、初対面の人間にそんなことを思うのも、ばっかばかしいことこの上ないことだって――何度も言ってっけど、俺は知ってる。

だから興味ない。

カンケーないし。








―――ガラララッ。




「センセー、ちわわー」

転入生が入ってきた時と同じ効果音が教室内に響いた。

ふざけたノリで教室に入ってきたのは、たった今「ダン ゴのえ」が座ろうとしていた席の主だ。


「……キミ、今日から一週間おたふく風邪で休むんじゃなかったの?」

突然現れたぽっちゃりクラスメイトに、センコーはそう言いながら出席簿を訂正している。


で、ぽっちゃりはこう返すわけ。


「それがさあ、おれ、おたふくじゃなかったみたい!再び!ちーわわー!」

ヘーイ、フレンド。
今日もエッジが効いてんな。
まあエッジっつうか、オチャメぶり爆発させてるっていうか。

ターザンの「アーアアー」のアクセントでまさかの「チーワワー」。プロだろ。




「じゃあ早く席に就きなさい。……あ、段さんはどうしよう」

センセーがぽつりと呟いて教室を見回した視線に、俺は見事、バチィっとかち遭った。

「遭った」、誤字じゃない。

遅刻寸前なのに腰曲げて大荷物抱えてはあはあ言ってるばあさんに遭遇しちまったくらいついてねぇタイミングだったと言える。

多分この先ずっと言ってる。




「あれ、サイモンくんの隣だれだっけ」

誰もなにも、今あんたが相手にしてるぽっちゃりだよ。
のヤロウ、「前の席はいやだ!」とか言って、しれーっと勝手に席替えしやがったわけ。
「サイモンが嫌いなわけじゃないよ。後ろがいいだけ。ごめんね」とか言ってた。知るかバカ。

だから必然的に、俺の隣は空席。いつも。

ときたらもう、担任のセンセーが言うことは、ひとつしかねぇよな。






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