アティア ー運命の恋ー
川の風

シフォンをつれて、富士川のほとりに散歩に行った。
身延山がかすんで見える。
とても静かなところだ。
お兄ちゃんは、ここが大好きだった。
難しい本をここの河原でじっと読んでた。

シフォンはお兄ちゃんに顔が似ていた。
目がくりっとして、きらきらしてる。
頭もよくて、かっこいいお兄ちゃん。
ものすごくモテた。
でも彼女なんか作らず、いつも私を大事にしてくれた。
別に、シスコンとかじゃない。
「真樹が本当に好きな人ができて、その人と幸せになるまで、見守っていてやるよ」
そう言ってくれていた。
パパのかわりというわけでもない。
パパには一か月に一度は会えたし、パパも嫌いじゃない。

パパは心が弱くって、死のうとするから、一人になりたくなったみたい。
そういうパパを好きになった、女の人がいて、面倒みてくれてる。
超かっこ悪いから、誰にもいえない。
パパは外国に行ったことになってる。
どこの国に行ったのか百回くらい聞かれて、
百回くらいアメリカって、うそついた。

川の風はやさしい。
なんの匂いもしない。
さわやかなつぶが、ぷちぷちって、来るかんじ。
シフォンも静かに座って、私を見ている。
なんか家に帰りたくなくて、河原に座ってた。
「正樹じゃなくて、あんたが死ねばよかったのに」
ママはそういった。

そうだろう
そう思っているんだろう。
それはわかってた。
でも、本当に言ってほしくなかった。
私だって代わってあげたいよ。
でも、ママなんだから、
真樹がいて良かったくらいのこと、言ってほしいよ。
そういうママだから、パパは出て行ったんだ!
でも、そう言えなかった。
ママも死のうとしちゃうんじゃないかと思ったから。


「真樹さん」
ロック歌手のように、甘い声で、私の名前を誰かが呼んだ。
まわりを見渡したけど、誰もいない。
ふっと、右をみると、黒い服をきた、ロックっぽい人がいた。
「驚かしてごめん、おぼえてる?上条です。」







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