月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
そうでもしなければ萎縮してしまうほどの凄まじい表情を、酒井課長は浮かべていた。

それは怒りや絶望ではなく「覚悟」の二文字に見えた。

それ以外なにものでもないような気がした。

い、一体達郎は何をしでかしてくれたんだ…。

あたしは大人しく酒井課長の車の後部座席に乗り込んだ。

助手席に座る勇気はなかった。

「あの…」

おずおずと切り出す。

「達郎からアイスを買ってきてくれと電話があったので途中で…」

「うかがってます」

ピシャリと返された。

「はい!すみません!」

それからの道中、あたしは生きた心地がしなかった。

車内には重苦しい空気が満ちていた。

途中でコンビニに寄ってもらい、アイスを買ったが、酒井課長にも買っていこうと思ったほどだ。

余計な気を回すなと怒鳴りつけられるのを想像して思いとどまったが、手はハーゲンダッツをつかむ直前だった。

コンビニから扇町公園はすぐだった。

「日野巡査」

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