Lの境界線
『スイトピー、二年目のさよなら』

「シュン先輩」

閑散とした私立図書館。
聞き慣れた声が、俺の背中にかけられた。
小さく静寂を破ったその声は、少し躊躇いがちで、なんとなく戸惑っているような、気の弱そうな声だ。

ああ、よく知ってる。この声はあの子の。

「ショウか。どうした?」

静寂を破ることなんて気にせず、俺は幼馴染み兼後輩の方を振り向く。
理由を尋ねながら振り向いたが、彼が言葉にするまでもなく、その手に握られた化学の参考書で理解する。

期末テストが近い。だからこうして、俺も図書館に足を運んだのだが。

ショウは戸惑うように、いや、実際戸惑って、その童顔を歪める。
やがて、意を決したように、幾重にも重なった分厚い参考書が、ギュッと握られた。


「モル、って何ですか」


一瞬の沈黙。意味は理解できたが、いろんな物をすっ飛ばして質問してきた、何ともかわいい後輩に次第に頬が緩む。

「……おいで、教えてやるよ。化学は得意だから」

一応理系だし。と付け加え、俺は隣の椅子を引く。
ショウはそれを見て、やはり躊躇いがちに歩み寄り、ちょこんっ、と腰かける。
席に着いたら、今度はおずおずと参考書を開き、赤やら黄色やらのアンダーラインの入ったページをその細い指でさす。

「課外で進んだみたいなんですけど、休んでたからわかんなくて」
「あー、ね。土曜の課外?」
「はい」
「へぇ、なんでまた」

ページの内容をルーズリーフにまとめてやりながら、軽いノリで聞いた。
と、不意にショウの目が伏せられた。

その時の表情が「彼女」によく似ていて、俺は何とも言えない気持ちになる。

「……姉さんの、お墓参りで」

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