魑魅魍魎の菊






菊花は荷物を拾い上げ、正影と一緒に駅の駐輪場へと向かったのだ。

そして、正影はポケットに入っていたキャラメルを菊花に渡した。



「何ですかコレ…」

「キャラメルだ。見て解らないのか?」

「…いや、そうじゃなくて。玖珂君が私にこんな物くれるなんて…」

「俺だけウインナー食ってたら、お前不憫だろ」


そう告げられ、私は「ありがとう」と玖珂君にお礼を言った。そして口の中にキャラメルを放り投げる。


今は駐輪場からでも駅のネオンは輝かしく、星空の光を掻き消しているんだろうな…とぼんやりと考えしまうのだ。




「…で、何で加藤が"実体化"したんだ。それを聞く権利は俺にあるだろう」

「なぁーんだ。玖珂君ならそれとなく流してくれると思ったんだけどな…」



玖珂君の高い位置にある顔を苦笑した顔で見つめる私。やっぱり…一陰陽師の立場からしたら興味深いことかもね。



「…妖術っていう奴か?」

「そう——妖術で加藤さんを一時的に実体化させたのよ。妖術とは、元々人に害を与えるもの」



…この地味女が言う通り、"妖術"とは人に害を与える言わば黒魔術のような存在。
昔から怨霊を実体化にし、人間に多大なる害を与えていたという話はウチの親父から何度か聞いたことがあった。



(——重要なのは物の見方、って奴か…)

ふと加藤の言葉が頭を掠めた。



「…お前、良いことするじゃん」

「あれ?それを言うなら玖珂君だよ。最初は嫌だって言っていた割には加藤さんの面倒見てくれたじゃないの」

「…別に。俺は何もしてねぇ」



この人って褒められると照れるのかね?

玖珂君の顔は背けられて見えないけど、耳が微かに赤い。


 

< 113 / 401 >

この作品をシェア

pagetop