魑魅魍魎の菊
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——闇に愛されるとは、一体どのようなことであろう。それを統べる者は何を担うのか。
日が天辺に昇る時刻に少女は——とある電柱の下に菊やかすみ草、竜胆の花など彩られた花束を置き、合掌をしていた。
「……お嬢さん、早くここから立ち去りなさい。"また"襲われてしまいますよ?」
少女の目の前に自分とは違う影が出来るが、振り返らずに小さく笑い花を整える。
そよそよと吹く風がどこまでも吹き抜けるように願ったのだ。
「…何だか、また"本屋"さんが守ってくれるような気がするんですよ」
「何故?」
少女の後ろに立つのは、刀を携えた黒い着物を着衣している《他のなにか》だった。
長い髪を低い位置で束ね、般若の能面がまるで"死"を宣告するようにも思えた。
「おかしな話ですよね…。死んだ人なのに、私に触れて……助けてくれたんですよ?少し前にも、本屋さんが私を助けてくれたんです。でも——亡くなっていたなんて…」
「…存じなかったのですか?」
「えぇ、最近……本屋に行っても居ないな…って思っていたら。交通事故で亡くなったことをお店の人から聞いて…」
本当におかしな話。……何も泣きながら告白しなくったって良いのにね。
私失恋したばかりなのよ?ちょっと心が揺らいだら、死んでいるだなんて酷いよ。ドキドキしちゃった私が馬鹿みたいでしょう?
本当は接客苦手で笑顔が固くて、それでも頑張ってお仕事していて。本が本当に大好きで、細い腕なのに頑張って雑用なんか引き受けちゃっていて…
でもなんでだろうね。嫌いじゃなかったんだ、そういう頑張り屋な所。
(——本当、最後にあんな素敵な笑顔しなくたって良いのに)
いつも裏方で仕事をしていて、そのくせ人の好きなものをピタっと言い当てるなんて…
「…くぁっ…お礼ぐらい、言わせてよ…バカ…」
「泣かないでお嬢さん。あの人はね、君の笑った顔が好きだと言っていたよ」
「えっ…?」
彼女を振り向かせないようにそっと肩を押す《他のなにか》。