魑魅魍魎の菊

麦わら帽子と青い空




「おはようございます」

「あら、おはよう美鈴ちゃん」



美鈴はマンションのエントランス前で花壇のお花に水をあげていたのだ。そこに現れたのは同じマンションのおば様でにこにこ笑いながら美鈴に挨拶をした。


このおば様は萩原家の事情を存じており、美鈴のことは預かっていると聞いている。



「……よし、あんまりあげると枯れる」

美鈴は小さくつぶやきながら、ゾウさんの如雨露を管理人さんに返して部屋に戻ったのだ。



「いやー…美鈴ちゃんは良い子だね奥さん」

「そうですね〜管理人さん。美鈴ちゃん、もっと大きくなったら美人さんになっちゃうわ。そしたら萩谷さんの息子さんも大変ね?」

「まったくですなー」



美鈴が蛇の物の怪と知らないマンションの住人は皆、彼女の成長を楽しみにしていた。突如現れた小さな美少女に誰もが驚いたが、今や愛される存在になっている。










美鈴と龍星が同棲(?)して、約一ヶ月程経った。

幾分人間の生活の仕方を学び、それなりに順応し始めたのだ。腰まで伸びる黒髪は艶があり、その首筋から背中までには傷があったのだ——…



これだけは同居人であり保護者の龍星にも見せてはいけない。





(……きっと、嫌いになっちゃう)


今まで永く生きていたので生け捕りにされそうになったり、森の動物から迫害を受けていたので癒えない傷もある。


龍星を食べようとしたときに、天狐に噛み付かれた傷だけは一生消えない酷い傷になっており、酷いのだ。



菊花ですか治せれない傷なのだ。これは自分が背負う「罪」であり、傷。心優しい人間を襲おうとした「罰」なのだと。





(——「罪」はずっと苦しく背負っていくんだ)


自分の"主人"が苦しげに吐いていた。


 
< 230 / 401 >

この作品をシェア

pagetop