魑魅魍魎の菊



龍星は普段バスを使って通学をしている。以前まではバイクを使っていたが、美鈴という可愛い存在が出来たのことで、安全ルートのバスに乗るようになったらしい。


(バイクで事故して美鈴が哀しむ姿なんて——こっちが見るに堪えれネェ…)



バスと徒歩を合わせて30分という通学時間なので、龍星の授業終了時間までには間に合うはずだ。


それより、このまま順調に行けば…お昼休みという時間に着く。あんまり人間が多いならば…菊花様をお呼びして、渡してもらおう。




(……マンションに住んでいる人なら大丈夫だが、他の人間は恐い…)




美鈴はバスの停留所で暫く待っていると、バスがやってきたのだ。リュウセイに教えてもらった通りにお金を入れる…。




(……い、いっぱい人間が居る…!!)


中に入って驚愕した。こんな鉄の塊の中に人間が沢山居るのだ。……リュウセイはあんまり外を歩くな、危ないからというが…



美鈴はゴクリと唾を飲み込んで、空いている座席に座った。…ききき、菊花様…美鈴は頑張ります!




「おやおや、お嬢さん。…どこかへお使いかい?」

「!!!???ふ、ふにゃあっ…!」



突如聞こえた声に奇声を発し、体をビクッと震わした美鈴は口元を押さえながら聞こえて来た声の方向を見れば…。



いつしかの蛇骨婆様のように優しい笑みを浮かべるおばあさんだったのだ。

された質問にこ、答えなくてはいけない。…これはお使い、ですよね?



「はは、はいっ…」

「こんなに小さい女の子が偉いね〜」


ふふっと笑うおばあさんは「偉い偉い」と言ってくれて、その言葉を聞くと…胸の何処かが温かくなった。



(——ほ、褒められた)


美鈴は頬を赤らめ、麦わら帽子のつばをぎゅっと引っ張ったのだ。



(…リュウセイも、褒めてくれるかな?)


浮かんで来たのは、太陽みたいに明るく笑う龍星の顔だったのだ。

 
< 232 / 401 >

この作品をシェア

pagetop