魑魅魍魎の菊



(——…リュウセイの、馬鹿)


みんながぞろぞろと茂みから出て行くが、美鈴だけはぎゅっと拳を握りながら立ち尽くす。こんなにどろどろとした感情は初めてかもしれない——…




好きとは何なのであろうか?


愛することって何だろう。




——夕焼け空を見ていると、世界が崩れそうに見えるんだ。

剥がれかけた世界に何を見出せば良いんだろうか。美鈴はこの場に居たくなかったのでとぼとぼと歩き出した。

……菊花に挨拶するのも忘れて、龍星の横をするりと通り過ぎようとすると…





「み、美鈴…?」

私の腕を掴んで、朧気に呟くリュウセイだった。夕焼けのせいか、さっきの女の子のせいなのか頬がほんのり赤い。


(…面白くない)

あの鏡の付喪神のことも可愛いって言って…可愛がった?




「……美鈴は実家に帰らせていただきます」

「へっ——?!」

(つかその言葉を何処で覚えたんだ?!)


正影達は笑いを堪えながら二人を見つめて、野暮なことをせずに見届けようと心に決めるのだ。



「みみみ、美鈴チャン?!な、何を言ってるんだ!」

無表情になる美鈴はポシェットからバイクの鍵を取り出し、手を思い切り伸ばして龍星に押し付ける。



「——…デレデレしちゃって、」



…そりゃあ、美鈴は表情は豊かではないです。仕方無いじゃないですか、元は蛇だったんですから。

……お顔だって、先ほどの女子や鏡の付喪みたいに可愛いわけじゃないですよ。正直、負けたって思う自分が居ました。


悔しかったですよ、しかもキライな子がリュウセイに可愛がられているって…。


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