魑魅魍魎の菊



「何百年前のことをズルズル引きずってんな」




そんなに女々しいか。

そんなに——「愛した女」を忘れないのかよ。


鋭く光る「不死鳥」が唸る。持ち主の意志を感じてか、微かに熱を帯びているのだ。




「——忘れられない女性が居ちゃ、駄目なのかい」


悲しみが共鳴するとき、「  」も笑ってくれるのかな。
大槻の背後には、重々しい空気がのしかかる。この暗闇に一筋の光を誰か放って。




「…おめーは滅せさせない。俺がんな事させネェ…」

「私は疲れたんだよ。"神"というものが」


小さく息を呑む蓬莱は不憫だが、今は俺と大槻の戦いだ。ここで退いたら、「魑魅魍魎」の思う壺だ。






「だったら、残されたモノはどうすんだよ!テメェを慕って集ったこの"社"はどうなる!!」







——アレ、




(——菊花、)


頭の片隅に血塗れた菊花の姿が浮かび上がってしまった。どうしてこう、思い出したく無い時にお前は出て来るんだ。


正影が言い放つと、黙りとする大槻。




「……私の意志は、どうなるんだ」



——私は疲れたんだ。
あまりにも抑揚のない声だったので、一発殴ってやろうと思った瞬間——



御堂にある鏡に一瞬だけ、







(——般若、だと?)




それと、カラスの羽根。


 
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