魑魅魍魎の菊







「——駄目でございます、」


蚊が鳴くような声で突然美鈴が言い出した。龍星に抱えられている少女の額には汗がびっしょりかかれていた。



「美鈴…ちゃん?何が駄目なの?」

「おい…美鈴、本当に大丈夫か?」



現在は竹林を小走りで移動しているようなものだ、奥の方で高村の殺気のようなオーラがひしひしと感じられて気分が悪い。

毎回あの女の非道な行為といったら、目に余るものがある。





(……これ、以上)

美鈴は怠い体を下ろしてもらって、殆ど焦点の合わない瞳で空を見上げる。竹林に霞んで美しい月光、そして何頭かこちらにやってくる青い蝶々と蛍たち。




「美鈴っち…?大丈夫だよ、言ってごらん?」

加藤も美鈴の目線に合わせるようにする。少女の瞳は何故か——








——黄色い、爬虫類独特の瞳になっていた。



(またもや、あの記憶が呼び覚ます)







「……それ、以上は——危険、…菊花様が——」







(——それは生まれながらにして背負わなくてはならなかった、)

(——貴方の能力(チカラ)を頂戴?)


頭の奥で笑う主が壊れないようにと、ただ願うだけ。

そして、愛する人が私を見て怯えてないように願うのは愚かかしら?でも、仕方無いわね。



それでも、"貴方"は美鈴が怖いんだもんね?



 
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