破天コウ!
 走りながら、これでもかというくらいに首を右へ左へ動かしてみるが、本当に誰もいない。車も自転車も通らない。

 一体、どうなっているんだ?

 警官一人くらい、いてくれてもいいだろう。

 普段は、お前ら暇かと言いたくなるくらいにその辺をウロウロしているくせに。

 盗んだ自転車じゃないかと、頻繁に防犯登録をチェックしやがるくせに。

 出てこい、お巡りさん! アイスぐらいならおごってあげるから!

 なんて、頭の中で土下座してみても、一向に現れてはくれない。

 ただただ、後ろで聞こえるワン公の雄叫びが迫ってくるだけ。どんどん、距離が縮まっている気がする。

 おれの頭に、強烈な臭いを発するどろりとした液体が降り注いだ。

 振り向きたくはなかったが、後ろを振り向いてみる。

 嗚呼……あの世への入り口が開いていらっしゃる……ワン公の真ん中の頭が、何の遠慮もせずにお口を開ききっていらっしゃる……。

 その口がおれの上半身を飲み込んだ。鋭い牙が、あちらこちらに。

 ダメだ、こりゃ。死んだわ。

 なむなむ……だなんて唱えて矢先――ワン公の口に覆われてほぼ真っ暗闇になっていた視界が急に明るんだ。

 骨がへし折れるような鈍い音とともに、ワン公のものと思われる甲高い悲鳴が聞こえた。

 直後、腹に大きな穴が開いたんじゃないかと思う程の激痛が走った。

 そして、地面、空、地面……という具合に視界が何度も回転してから、おれは気を失った。

 気のせいだろうか。狭まっていくおれの視界の端に、女子高生らしき人影ちらついていたのは――。
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