第七世界
「禍々しさが増したな」

「どうでもいい話だ。邪魔をするのならお前を地面に叩き伏せる」

「粗暴なところも変わっていない」

「どうでもいい話だと言ったはずだ。二度も言わせるな」

「刹那以外に興味はないらしい、な」

楓は大きな一歩を前に出し、アゴを打ち上げるように掌底を放つ。

達人の域に達している動きだが、一歩下がる動きのみで避ける。

「ふ!」

連続で顔狙いの後ろ回し蹴りを放つ。

仮面の男は背を多少反って避けると、重心を低く置いて構える。

「お前が思考を読もうとも、お前と俺との距離は開いている」

楓は仮面の男の思考を読めない。

暗黒が移るだけで、読んだところで無駄だった。

「五射穿孔」

間合いを詰めるかのような一歩。

踏み出した一歩はアスファルトを砕き地面に埋まる。

だが、構わずに仮面の男は突きを放った。

常人には一発にしか見えなかったかもしれない。

だが、仮面の男が放った名前のように、五発打ち放たされていた。

楓は三発は受け止めることが出来た。

しかし、それが仮面の男と楓との差だったのかもしれない。

残り二発、胸と腹に拳がめり込み、後方へ滑っていくように下がる。

「が」

楓が如何に強くても、仮面の男の二発は大きかった。

耐え切れず、その場に膝をつく。

「お前を殴ったところで虚無なのだ。何も生まれはしない」

男の声は悲しみさえ篭っているように聞こえてくる。

「悟りを開きたければ山にでも篭ればいい。刹那が良い迷惑だ」

立ち上がろうとするが、足の動く気配がない。

ダメージの大きさは計り知れないようだった。

「自分の体の事すらわからないか。悲しい女だ」

「哀れみを向けるのは自分だけにしておいて欲しいな」
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